明日もあさえの風が吹く しあわせ
2008.06.18 しあわせ
母が寝坊した。
急きょ弁当を買わなければならなくなった。

コンビニに寄るべきだった。
研修室の入っているビルの下で、昼時に毎日弁当屋が出張販売を行っている。
そこで買えばいいやと先を急ぐ。

「昼休みの時間を変更します」
突然言われた。
そのときは、そうなるなんて微塵も思わなかった。

昼。
午前の研修が終了した。
さあ弁当を買いに行こうと窓から外の風景を見渡す。

あれ。

なにかがないと思った。

いつもあって、今ないもの。

…弁当屋だ。

財布をにぎりしめた右手が、すごく惨めだった。

どうしよう。

そういえば、鞄のなかにカロリーメイトが一袋あったはず。

それでしのごう。

一日くらい、しのげるはずだ。

黄金に光る袋。
少しのかけらもこぼさないように、ゆっくりと口を切る。

最初に顔をのぞかせた1本を、口の中へ。

じんわり広がる、甘さ控えめなビスケット。

「お弁当は?」
近くに座る同期に声をかけられ我に返る。

「今日は、これだけなんだ」
最後の1本をほおばりながら、弁当が買えなかった経緯を説明する。

さよならはあっという間。
話し終わるころには、全てが溶けてなくなっていた。
今日ほど、それとの別れがつらかった日はないだろう。

いつもよりだいぶ早めの昼食が終わり、ゴミを捨てるため腰をあげようとした瞬間。

「これあげる」
突然視界に入り込んできた、カカオ味の大豆バー。

大丈夫だから、と返そうとした。
「どうせ朝食べようと思ってたやつだし」
受け入れを頑なに拒まれた。

「これも食べてええよ」
渡されたビスケット。
「そのかわり、今度私がひもじいとき助けてな」

嬉しくて、涙が出そうだった。

それはもちろん。
今まで食べたことのない、極上の味がした。

みんな、ありがとう。

これから、常に食べものを持ち歩こう。

次は、自分が誰かに救いの手を差し延べられるように。


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